こうして部下はキャバ嬢に呼ばれてまたキャバクラへ行った。台風の日に雨にも負けず風にも負けずキャバクラへ行った。しかし電車は遅延が発生していたため、すぐに行ける訳ではなかった。そもそも電車が来るのかも怪しい状況だったが、キャバ嬢は早上がりをさせられないよう必死だった。

まず自分を目当てに来ることを確約させ、自分が早上がりさせられないよう自分指名の客がキャバクラへ来ることを経営側に伝えたかった。部下が電車が来るか分からないと言ってもしつこく何度も何時に来れるか確認の連絡をした。部下はそれが嬉しかった。何度も連絡が来るなんてこと普段はないからだ

そして部下は遅延した電車に乗ってキャバクラへ向かった。帰りの電車がないのは分かっていたが、タクシーで帰るつもりだった。いや、タクシーだってつかまるか分からない状況なのに、それでもキャバ嬢に会いに行った。もしタクシーがつかまらなかったら翌日仕事があるのに家へ帰ることができず、疲れ果ててしまうというのに。もう冷静な判断なんてできたものではない。

こうして部下はキャバクラへ行った。ところが駅を降りてキャバ嬢へ連絡しても反応がない。連絡してしばらく待ってもLINEが既読にならない。部下としては苦労して電車に乗って来たのだから、何もせず引き返す訳にも行かず、キャバ嬢からの反応がなくてもキャバクラへ行き、入口の扉を開けた。

するとあれほど客がいなくて早上がりさせられると騒いで部下を呼んだキャバ嬢は他の客の指名を受けていた。つまりはこういうことだ。キャバ嬢は営業メールを部下だけではなく、複数人の客に送っていた。部下のように困っているキャバ嬢を助けようと男を見せたバカが他にもいたのだ。同じ時間帯に指名が重なった。

指名が重なるとどうなるか。他の指名客と同席に…なんてことは絶対にない。離れた席に案内されて空いているフリーのキャバ嬢が付き、世間話をして無駄な時間を過ごすことになる。誰でもいいから女の子と話がしたい、お酒が飲めればいいという方は無駄な時間ではないかもしれないが、部下にとっては借金まみれの中で無理をしてお目当てのキャバ嬢に会いに行っているのだ。フリーのキャバ嬢との過ごす時間は無駄以外の何物でもない。こうして30分間フリーのキャバ嬢と世間話をすることになった。

指名するキャバ嬢がいる場合、他のキャバ嬢とLINE交換することは許されない。30分約5000円を無駄に使うことになる。お目当てのキャバ嬢は来店してから30分経ってようやく部下の席に来た。部下のお財布事情的に1万円が限界だから1時間しかお店にいることができない。残り時間はあと30分。

30分なんてあっという間だ。その30分で部下はキャバ嬢に未読無視されていた理由を聞いた。キャバ嬢は部下とのLINEのやり取りの中で気になった言い方があったからと言った。実際は部下とのやり取りが面倒になっただけというのが本音だろうが、キャバ嬢の言い分はこうだ。

つづく